光降る 清川の音 凪澄みて 夜風に乱る 満天の蛍

和歌のイメージ
【夏の和歌】光降る 清川の音 凪澄みて 夜風に乱る 満天の蛍のイメージ

清川の音とホタルに懐かしさを感じて

山間の澄んだ川を訪れると、あたりには絶え間ないせせらぎの音が響いています。
水面は細やかな光を返し、その上を夜の気配がそっと覆いはじめるころ。
ふいに、小さな命の光がいくつも現れて、暗い空間にやわらかく灯をともします。

ホタルの光は、何度見ても胸の奥が少しきゅっとなるほど素敵なものです。
夜風に身をゆだねながら、ただ無心に光の行方を目で追っていると、心に積もった塵のような思い煩いが、一つひとつそっと溶けていくように感じられます。

昔はこうした光景に触れる機会がもっと身近にあったそうです。
けれど、いつの間にかそれは遠いものとなり、今では山や川のある場所に足を運ばなければ見られない光になりました。
だからでしょうか。年に一度は無性にホタルに会いたくなり、夜道を選んで川へと向かいます。

蛍がふわりと舞い、またひとつ、またひとつと闇に浮かぶ様子は、どこか懐かしく、そして少し切なくもあります。
そこには確かに命のきらめきがあり、けれどそれはほんの束の間で、すぐにまた暗闇に還っていってしまう。
そのはかなさに、どうしようもなく惹かれてしまうのです。

そんな夜に感じた想いを、そっと言葉に置き換えるようにして詠んだのが、この和歌です。
光を追いながらも、音を聴きながらも、心はいつもどこか遠くに向かって手を伸ばしているような気がします。
ホタルの灯が消えたあとも、その余韻だけは長く胸に残り続けて、また来年もきっと、同じ川辺に立つのだろうと思います。

それはただ好きだから、という一言では言い尽くせない何かで、けれどやっぱり、好きだからなのだとしか言いようがないのかもしれません。
こうして毎年、ホタルに会うたびに同じ想いを繰り返している自分を、少し可笑しく、少し愛おしく感じながら…
今年もまた、一首をそっと胸の中に置きました。

ふりがな

ひかりふる
きよかわのおと
なぎすみて
よかぜにみだる
まんてんのほたる

意訳

川のせせらぎが澄んだ夜気に溶け、風も止んで静まり返ったその水辺に、ふいに光がこぼれる。

蛍たちが夜風にそっと舞い乱れ、星空と見まがうほどに、あたり一面をやさしく照らしていた。

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