紅広ぐ 海に溶けゆく 空の下 月も上がりぬ 満点の君

和歌のイメージ
【夏の和歌】紅広ぐ 海に溶けゆく 空の下 月も上がりぬ 満点の君のイメージ

海と空の境を、幼い頃からずっと不思議に思っていました。
水平線を見つめていると、その線はあまりにも遠くにあって、はっきりとそこにあるはずなのに、どこかあやふやで、気づけば海と空とが溶け合ってしまうような錯覚におちいることがありました。

小さなころは、ただ面白がってその景色を眺めていたものです。海の青と空の青がゆっくりと混じり合い、一体となっていく様子は、見ているだけで胸がすうっと軽くなるような、不思議な安らぎがありました。

やがて歳を重ね、大人になってからも、水平線は変わらずそこにあります。けれど、夕暮れ時の海が少しずつ星を散らす夜空へと変わっていく様子を見ていると、子どもの頃とはまた違う感情が胸を過ぎるようになりました。

日が沈み、あたたかな紅が静かに消えていく。そのあとを追うように、ひっそりと夜が満ちてくる。その移ろいを眺めながら、人の心もまたこうして、ひとつの想いが色を変え、やがて別の想いに塗り替わっていくものなのかもしれない。そんなことを、ぼんやりと考えるのです。

この和歌は、そうして移ろいゆく景色を、人の心にそっと重ね合わせるように詠んだものです。
消えていくもの、溶けていくものの中に、なお残り続ける光があるのだと信じたくて。
水平線を見つめながら、今日もまた、言葉をそっとすくい上げています。

意訳

夕焼けが、海と空の境にゆるやかに溶けていく。
その色の中に、夜が静かにやってくる。
やがて、空には月がのぼり、星が灯り、そのすべてを映したような、満点の笑顔の君。

同じ季節の和歌